"効率的なインプット"?


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 12:27 pm

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

私の少中高校生時代は地獄でした。一定の空間に半日ほど拘束され、固定された人間関係に縛られ、なのに、共通した目的もなく、にもかかわらず、あれもこれも駄目、しかも土地に根ざした人たちが多くいる、という環境は、とても辛かったです。詳細は省きますが、とにかく私にとっては全くの地獄でした。

しかし、教科教育、いわゆる授業は嫌いではありませんでした。比較的楽しかったですし、学びがありました。教師によって教えるのに上手下手、というのはありましたが、地獄の半日の中では心休まるものでした。

ところで、授業中に内職している人が一定数います。その内職というのは、多くが学習塾の勉強です。なぜそのようなことを彼らがしているか尋ねれば、「学校の授業は効率的じゃないから」と答えるでしょう。実際、そう答える人もいました。

このような話は、児童や生徒に限ったは暗視ではありません。大人においても、インプットを効率的にしたいと思っている人は多くいるでしょう。しかし、

"効率的なインプット"は存在しません

。そもそも、"インプット"において効率性は問えません。本や資料を速読したり、倍速で動画を見たりして、「他の人がかける時間の半分でインプットをしたから、効率的です」と答えるかもしれませんが、「それで?」となるでしょう。もし生徒がそのようなことを言ったら、親は「それでテストの点数は上がったの?」と聞くでしょう。仕事の場合なら、「それで成果物はもう出来たの?」と上司は聞くでしょう。つまり、効率性が問われる対象は、インプット単体ではなく、そこから先、アウトプットをするまでのサイクルです

この効率性の語用について、あなたは既に知っていたかもしれません。しかし、たくさんの情報を素早く手に入れたい、と思う人は世の中に多くいます。もしかしたら、効率性について十分に知っている人も、時々そういう欲求に駆られるかもしれません。しかし、その手に入れた情報は、結局、何に使うのでしょうか? 引き出しの奥にしまうためでもなく、もう二度と開かないメモ帳やファイルに書き込むためでもないでしょう。現状を把握して何をするのかしないのかを適切に判断し行動するためだったり、短期から中長期にいたるまでの自分(ら)のするべきことや自分らの目的地を考えるためだったり、新たなアイデアを作り出すためだったり、色々あります。そして、私が思う、何より大事なのは、自分が変わるために、情報を集めることです。

あなたが生徒だった時の授業を思い出してみてください。読んで覚えるだけなら10分もかからないような教科書5ページ未満の内容のために、授業には一時間近く時間が使われていたはずです。つまり、教科書や参考書にはないことを教えられていたはずです。そのテキストにないことは、教師の問いにあります。あなたが思い出せるかどうかは分かりませんが、教師はその授業ごとに目標や目的を明示的でない形で設定していて、その目標や目的のために質問や発話を多くして、生徒たちを混乱させて考えさせようとしていたのです。そして、その思考によって、知識だけではなく、知恵を身に着けたり、行動変容が生じたりするようにしていたのです。

ただインプットをするだけ、ただ覚えるだけでは、駄目なのです。output, outcome, impactにつながること、もしくは脳に汗をかくようなDeliberate Workを経てWisdomを獲得すること、ここまでやらなければ意味がないのです。インプットのその先まで行ってから、初めて意味と効率性が生じるのです

しかし、impactを出すことやWisdomを獲得することのために、果たして"効率性"は有効な指標なのでしょうか? 特に単一の基準、例えば「半分の時間で出来ました」などは、求めているものを得るための真正の指標となりうるのでしょうか? 直ぐに結論にたどり着くことは大抵ありませんし、出来たとしても質の面に問題があるか、もしくは次の挑戦の時に再現性がないかのどちらかでしょう。むしろ、ああでもない、こうでもないと色々と考え、こっちのアプローチそっちのアプローチと色々と試し、つまり脳に汗をかくようなDeliberate Workをやった結果得られた結論の方が、質の面でも再現性の面でも優れていることでしょう。つまり、

単一の指標では非効率なものが有効である

という可能性は大いにあるのです。

このように「効率的なインプット」がその性質として虚無であること、そして、インプットが繋がる先の本当に欲しい物からすると、ある種の非効率さが有効であること、これらの一部があなたにも伝わったかもしれません。

"一部"という言葉を使ったのは、自分の中にまだ伝えきれていないものがあったり、Deliberate Workをやり切った感じがしなかったりするからです。

ImpactやAuthentic Valueを出すために、Wisdomを身につけるため、もしくは、行動変容を起こすためにはどうすれば良いのでしょうか。一見非効率に見えるDeliberate Workをしなければなりません。その裏には、兼ねてから述べているように、Mangerの言う"latticework of theory"(†1)や、パーリ仏典のヴィパッサナー(†2)が関連しているはずです。

この関連について、そして、真正の記述をすること、こららについてあなたに伝えられるように、私はDeliberate Workをし続けようと思います。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

†1: "latticework of theory"というのはマンガーの講演の一節に由来します。私のNewsletterでは度々取り上げています。例えば、「もっと本を!」ではその原文と訳を載せています。「「速読」は"早く読むこと"ではない」(2025-03-23送信)では、Zettelkastenを用いてどうやって自分の知識を発展させることができるかを語るにおいて、"latticework of theory"を取り上げています。

†2: 洞察(ヴィパッサナー)瞑想というのは、座禅などの集中(サマタ)瞑想とともになって両輪となるものです。洞察(ヴィパッサナー)瞑想とは、自分の身体、記憶、思考、感情、その時に現れるありとあらゆるもの全てを注意の対象とし、観察します。2024年3月頃に「「歩く」という動作を記述してみました」というのを送信していたので、これを本日公開しました。もし気になったらご覧ください。

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