赤の女王


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 12:03 p.m.

親愛なる友人へ、

赤の女王をご存知ですか?

ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくる頭の大きな女王様のことです。そして、赤の女王の「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」というセリフから生まれた、種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならない、という赤の女王仮説もあります。

この仮説はあなたもなんとなく知っていたり信じていたりするかもしれません。私もそうです。エンジニアとしても、マネージャーとしても、そして、スタートアップという業界にいる個人・組織としても、立ち止まってしまっては絶滅するしかない、と私は思っています。つまり、

私も赤の女王なのです。

そのため、勉強、学習、挑戦を行い、時にはハードワークをしたり、がむしゃらに働いたりもしました。しかし、それは本当に「全力で走り続ける」ことだったのでしょうか? 本当に「その場にとどまる」ことができたのでしょうか? 生存できた結果から見れば、これらの質問に対してはYESと答えられるのでしょうが、しかし、筋の良いものではなかったと思います。

生存する(その場にとどまる)ために、進化し続ける(走り続ける)必要があるのであって、進化につながらないような努力は無意味です。ただがむしゃらに頑張ることは、本当の意味での「全力で走り続ける」ことではないのです。そして、進化をなくす環境、つまり競争をなくす環境は、個々の無意味な努力と同様に、無意味なのです。

どのような環境が進化に適していないか、競争をなくすものなのか、そして、個人にとって筋の良い全力疾走とは何かを考えるにあたって、参考になるのは2018年に行われたGoogleのモットーの改悪だと私は思います。

もともとの序文に置かれていた"Don't be evil"(「邪悪になるな」)が、"Do the right thing"(「正しいことをせよ」)に取って代わりました。「正しいことをする」というのは、ある方向にアラインメントして、それに反するものは除外し、正しいことは正しいから良いのである、と自家中毒に陥らせるものです。反対に、evilにならないというのは、邪悪にならなければ何でもOKとすら解釈できる、かなり寛容なものです。この2つの差は歴然としたものです。"Do the right thing"には、競争を生むためのそもそもの競争相手が生まれる余地がありません。本当に「走り続ける」ことは、"Don't be evil"でしか可能ではありません。

正しいことにHustleしていても、それは本当に進化することにはなりません。そのため、Culture of Hustleは、たとえどんなに楽しくても、注意の目を向けるべきです。

本当に必要なのは競争相手であり、それは全く異質なもの、相容れないもの、ある種の不快な獣であるべきなのです。そのために、参入障壁は極力低くするべきです

こう言うと、階級闘争や現代の選挙制度などが思い浮かぶかもしれません。もちろん、社会、国家、経済においても、赤の女王仮説は重要です。しかし、むしろ、自分の中の参入障壁に目を向けることに、ここでは紙幅を費やそうと思います。

例えば、バックエンドエンジニアとして生き残るために、ある言語について勉強したり、なんらかのアウトプットを出したり、がむしゃらに頑張ったり、というのはよくやりがちです。単純ですし、その領域に対するfascinationを持っていれば実行することは容易です。しかし、本当に競争しているのでしょうか? 競争相手のいない死の海で戦っていないでしょうか? このような冷めた目を自分に向けるのも時には大事です。

自分のやっていることに進化はあるのか?」「自分の行いを脅かす存在はないのか?」このように問いかけてみるのです。進化を可能にするためには、自分の行いを脅かす存在が必要です。自分の中に獣を宿す必要があります。獣を容易に自分の内に入れられるようにするために、参入障壁を低くしなければなりません。上記のバックエンドエンジニアの例に関連させれば、ローコードツールや生成AIの存在があったり、ビジネス上での他の人との連携ができるかどうかという課題があったり、さらには、世界のとてつもなく大きく複雑な問題を解決する野心というものもあるでしょう。

自分にとって心地よいこと、正しいこと、これらは多くの場合においてバイアスがかかったものです。不快な獣を招き入れて、それと戦って、生き残ることができてこそ、本当に走り続けたと言えるのです。Culture of Hustleなどのような獣なき環境での努力はただの徒労です。

そのため、参入障壁を減らすこと、もしくは、Multi-Agents認知パズルを解くことが助けとなるかもしれません。そして、その基礎にある、自己や世界をあるがままに記述することや、自己をなくすことが必要です。

真正の競争をしなければなりません。

そして、真正の記述をしなければなりません。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

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