ハンマーにとって全ては釘


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 10:10 a.m.

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

ハンマーにとって、全ては釘に見えます。

細長いものは釘、長いものも釘、直方体でも立方体でも、全ては叩ける対象で、ハンマーにとっては釘です。

同じことは人においても生じます。

(語弊は承知ですが、)医者から見れば誰もが患者、料理人から見れば全ては食材、YouTuber にとって全てはネタ、資本家にとってあらゆるものは金に見えるでしょう。

さらに、その人の職業や習慣や属性だけでなく、人が習得する概念や分類についても、同じことが生じるでしょう。

ある現場で「イベントソースは何にしますか?」という質問に対して「バッチで」という回答をするエンジニアがいた、という話を聞いたことがあります。「バッチ」という単語を用いたくなる気持ちはわかります。「ぐわっと、バッと、まとめて実行する」というのを 1 つの単語で示せるのですから。

しかし、この単語には正確性が欠けています。エンジニアリングにおいては、正確性が無ければ、情報も意図も正しくは伝わらないでしょう。

実際、「バッチ」という単語には少なくとも 2x2x3 の 12 パターンがあると思います。

  • タイミング:
    • 定期的に
    • ユーザーの行動をトリガーに
  • 対象:
    • 大容量を
    • すべてを
  • 行動:
    • チェックする
    • 更新する
    • 送信する

この 12 パターンによって、実装する内容、インフラ設計、テスト、これらはがらっと変わります。そして、そもそも何をやりたいか、どういうビジネス理由があるか、これらについても、この「バッチ」という単語によってボヤける危惧もあります。(たとえば、レコメンデーションメールを送ることと、データの転送をすることとを、同じものにカテゴライズすることの弊害は自明でしょう。)

こういう話をすれば、解像度は高ければ高いほどいい、と思うかもしれません。

しかし、必ずしもそうではありません。というのも、解像度を高くするために、私達は先立って分類しているからです。

分類は人が行うものであって、自然には境界や分類は本来なく、人が自然に押し付けているものです。世界が複雑であり、人の能力には限界があり、それに対応するために、関心ごとに分離を行いたく、そのために分類をする、というのは合理的な選択ではあります。そして、同様に人の能力の限界故に、分類した領域の中で解像度を高くしていくうちに、分類したもう一方とのつながりを忘れてしまうこともあります。

だから、ただ単に解像度が高ければいい、というわけではないのです。分類し、分離し、解像度を高くし、そして、その上で、統合をしなければなりません。その統合したものが、分類される前の状態と一致しなければならないのです。(Multi Agents による世界の記述と構造は同じです。)

すべてを釘とみなすハンマーになってもなりませんし、すべてを細かくしか見ない洞窟の中の博物学者になってもなりません。

正確な記述・分離と、全体の理解・統合、これらを相補的に繰り返し、知を前進させていかねばならないのです。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

P.S. 外延的概念から内包的概念へ、実体構造から形式構造へ、というのが現在の潮流であると私は見ています。これは、複雑な世界を分類してしまう人間にとってのランタンや羅針盤になる可能性もあると見て調べています。これについて話したかったのですが、まだ十分な調査が足りませんでした。これは長期の探求になるでしょう。

P.P.S. EM Conf というイベントに"「Software Engineering Management の哲学」の青写真"というタイトルでプロポーザルを出しました。まだ細かい内容は定まっていませんが、草案としてはこれまでの Newsletter の内容が存分に反映されていて、このプロポーザルを書くことができたのもあなたが Newsletter を読んでくださったおかげです。まだ採択されるかどうかは定まっていませんが、楽しみにしていてください。

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