「サイロ化」は認知パズル


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 9:29 a.m.

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

サイロ化、それは組織が縦割りになったり、自己の領域に各々がこもったりして、それぞれの領域では深化し強いですが、他方で横の連携をするところでやりづらさを感じる、もしくは連携できない状態という、ビジネスや組織において深刻な問題のことです。

ところで、職能やスキルセットで分けるところでサイロ化は生じると語られがちではありますが、実際は、機能横断チームであっても、機能やプロセスの領域ごとにサイロ化は生じます。だから、ギルドだったり、FASTやDynamic ReTeamingが使われたりして、職能においても機能においても領域をまたいだ交流が行われたり、分断が生じないくらいに流動的にしようとしたりするのです。しかし、それでもサイロ化は生じます。より残酷に言うと、

サイロ化は一生つきまといます

なぜなら、サイロが発見されるときは、新たな観点が生じた時であり、新たな観点は常に生じ得るからです。その原理についての図解や説明は後で行うとしましょう。さて、実際、技術、スキル、アートにおいては、新たなものが生まれたり、既存のものへの新たな視点や利用方法、そして、様々な組み合わせ方が常に誕生しています。それは新たな観点の提供であり、それによって、新たなことを学ぶことや、新たに技術領域において連携したりすることによって、対応しようと試みます。ですが、自分の領域にこもったり、もしくは自分の機能横断チームには関係ないからと反発も生じるでしょう。ビジネスにおいても同様であり、新たな視点が生じて、ビジネス領域での連携をしようとしても、技術領域や職能集団と関係ないからと反発することもあるでしょう。

結局、サイロ化というのは、定性的なeffectiveness(効率性)に関する問題であり、効率的に関わることができるのか、という問いです。たとえ「サイロになっていない」と言えても、それは、今の視点からは効率的に関わり合いが出来ていると述べているに過ぎず、将来や過去においてそうであるとは限りません。新たな観点が来るまで、本当のところは分からないのです。

そして、このサイロ化という一生続くであろう組織構造の問題をどうしようか、と、世のマネージャーは悩んでいます。あなたも悩んでいる一人かもしれません。しかし、私はこの問題への捉え方が異なります。私はこれを組織にとっては偶有的な問題、ツールの使い方に類する問題でしかないと思っています。

サイロ化は、不完全情報ゲームであり、

蟻の視点でも解ける認知パズルに過ぎません。

まず、そもそもビジネスというのはある種の世界の記述です。そして、従業員や部署というのはAgentであり、多様体や三次元平面上で見える範囲が限定されている蟻のようなものです。もちろん、Managerも経営者も決して神の視点に立つような存在ではなく、彼らもまた平面上にいる蟻のようなものです。そして、地点aと地点bにそれぞれAgent AとAgent Bがいて、世界の様子を見ていますが、それぞれの平面上で彼らは交わることがない、と仮定します。そこに新たに地点aと地点bの間の地点cに、Agent Cが現れ、そして、AとCの平面、BとCの平面が交わり、AとBとCの平面をつなげることができるようになります。もちろん、Agent AもBも頑張って仕事をしていますが、Agent Cの登場によって、彼らの仕事ぶりに関して、AとBが関わっていないことでの非効率性が生まれたのです。(平面の状況については下記の画像の上のカードと、下カードの右上部分を参考にしてください。)

では、非効率性がないように世界を記述するための適切な配置はあるのか、という問いには、簡単に答えられます。おそらく我々の世界は微分可能な多様体ですから、三角形分割可能です。ですが、世界の大きさが事前にはわかっていないし、世界の形を変えるようなことも生じる、というように、不完全な情報しかない状況では、最初の時点から分割するというのはできません。ましてや、リソースが限定的な状況でもあります。だから、当たりをつけて、まず配置して、それから追加したり除外したりを繰り返して、世界がある程度うまく記述できるようにしていきます。配置を考える人も、Agentsも真面目です。最善を尽くそうとしています。けれど、最初からうまく行くとは限りません。

不完全情報ゲームの場合、何回かうまくいかなくとしても、いつかは必ず成功する、と言えます。蟻は餌を見つけた時、どんなに遠くても、持ち運べる距離でありかつフェロモンを出せる限りにおいて、仲間に餌の場所を伝えられます。そして、人間の場合も、たとえ地図がなくても、伝達できる範囲に人がいれば、東京駅から新宿駅に行くための最短経路を作ることが出来ます。十分に人が配置されている場合は自明に分かりますし、どこかで欠落している場合でも、新たに配置するのを試みたり、探索したりすることによって、分かります。

このように理想的な完全情報ゲームでは自明に解決することが出来、不完全情報ゲームでも何度かトライアンドエラーをすれば最適解にたどり着くことができます。これがMulti-Agentsによる世界の協力的な記述という視点から見た、認知パズルとしてのサイロ化です。

もちろん、ManagerもしくはAgent Cにとっては、サイロ化の問題は深刻な組織の問題と捉えられるかもしれません。しかし、この不完全情報ゲームは一生付き合うことになる問題でありますし、どうせ解ける偶有的な問題なのです。蟻の視点からでも解けます。なので、サイロ化が生じること自体は諦めて、それは大きな問題やパラドクスではなく認知パズルとして受け入れましょう。誰かやどこかの部署や組織の問題と考えるよりも気が楽ですし、本質的な問題に近づきやすいでしょう。「サイロ」なんて仰々しい名前を付けるのもおかしいかもしれません。「認知パッチワークパズル」や「ジグソー認知パズル」など、あなたが適切だと思う名前を付けてあげましょう。

ただし、Multi Agentsによる協力的な世界の記述のためには、協力をすることと、正確な記述をすることが求められます。Agent CがAとBの平面をつなげようとしても、AとBが逆方向に行こうとすれば繋がるものも繋がりませんし、その上、Cの平面が引きちぎられるかもしれません。また、それぞれの記述が正確であるという前提のもとでありますから、その前提が成り立っていなければ目的も達成できませんし、中間目標を建てることすらできません。

ですから、Agentとしてまずすべきことは、自己の記述です。

その自己の記述に関して、最近、より良い方法がわかってきたので、次のNewsletterではそれについて話せたらな、と思っております。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

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