恥の多い生涯を送ってきました。


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 11:26 a.m.

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

先週はメールを送れなくて申し訳なかったです。

体調不良で、今日送る予定のものをどうしても書けませんでした。そして、その体調不良の理由は、今日あなたに伝えることとも関係しています。

恥の多い生涯を送って来ました。

これは太宰治の「人間失格」の一文で、あなたもご存知でしょう。実は、この一文にあるメンタリティと同じものを私も持っていました。実際、当時そう評価されることもありましたし、今私が振り返ってもそう判断します。

私は、学生時代、複数の名義で活動し、小説や随筆を書いていました。読んでくれた人からは、太宰治みたいだったと称賛する感想をいただくことが多くありました。私自身は、太宰のことは好きではなかったので、納得はしませんでしたが。

しかし、当時の自己評価とは別に、実際のところは、自分の短い人生において、失敗や恥ばかりが目についてしまっていたのは、事実です。

失敗や恥を思い出すのは嫌です。嫌ですが、やらねばならないことがあります。

もう振り返る必要がないように、

過去を直視し、過去を消化しよう。

私においては、過去の直視と消化によって、失敗や恥を思い出すことは減り、また、過去についてニュートラルに捉えることができるようになりました。

さて、なぜ「直視」や「消化」という言葉を使うのかと言いますと、それをしなかったことによって、数十年に渡り、1 人ではなく地域一帯において、不健全な状態が発生するケースがあるからです。

大阪は京橋駅周辺には、奇妙な怪談があります。真夏、川の近くで、大きな水音が、ドボーン、ドボーン、と聞こえるのです。あまりにも大きくて、建物の中に居ても聞こえるほどで、そしてそれは連続して聞こえ、無視できないほどです。これはたくさんの幽霊が川に飛び込んでいる音です。

この怪談の奇妙なところは、その内容ではなく、他の地域とは違った認識を、京橋駅周辺の人々が持っていることです。他の地域であれば、この幽霊が川に飛び込む音というのは、空襲と結び付けられます。焼夷弾の炎が衣服に燃え移り、それを消すために川に飛び込んだ、と考えます。しかし、京橋駅周辺では、そのような関連付けはされていません。同様に、他の怪談においても戦争との関連が見えるのに、関連付けをしません。

この現象は、吉田悠軌氏の解釈によれば、京橋駅の大阪砲兵工廠時代の影響で、軍事機密を部外秘にせんとする風潮があり、それと共に、戦後もネガティブな歴史が隠され、それが怪談となって噴出している、とのことです。

過去を直視せず、消化せずにいれば、それは虚構として別の形で噴出してしまいます。それが、何十年、何世代、地域一帯において生じているのは、あまり健全なものではないと思ってしまいます。同じことが、失敗や恥を隠してしまうことでも起きるでしょう。直視しなければ、消化しなければ、前に進めないと私は思っています。

しかし、ネガティブな歴史も、個人的な失敗や恥も、思い出したくはありません。しかし、思い出してしまいます。他方で、どうでもいいことは思い出しません。つまり、失敗や恥は、大事な過去なのです。そして、確定した過去のことであっても、私達は確定していないと信じています。事件・事故の報道があったら、その近くに住んでいる友人の安全を祈ります。過去は想起なり、という大森荘蔵の主張は、ここにおいて重要になります。大事な過去を、どのように想起できるかで、前に進めるかが変わるのです

自分の過去の体験について、メールを介してあなたに伝えています。それは、よかったこと、つらかったこと、失敗、恥、これらを直視し、消化し、過去を確定したものではなく、有意味なものにしているのです。過去を逐次確認することも、過去にビクつくこともないようにしているのです。

そのためには、因果関係ではなく、意味を与えることにフォーカスをしなければなりません。

それを実践する方法が、大事な過去について、それを共にした友人と話すことだと私は思います。

6 月 15 日の土曜日の渋谷で、私は友人と飲んでいました。9 年来の友人とです。彼とは年は離れていますが、友人関係は長年続いています。そして、当時を振り返り、これがあった、あれがあった、そうじゃなかった、楽しかった、大変だった、今はこう思う、等々とたくさん話しました。

友人とは、素直に、隠すことなく、当時のことを話せます。失敗も恥も話せます。そして、直視できるのです。さらに、友人が見ていたものと自分が見ていたものの違いから、深く消化することもできるのです。

今日のメールで、あなたに伝えたかったことは、

  • 過去を直視し、消化すること、

そのために、

  • 友人と話すこと、

でした。もう一つ伝えたいことは、友人と話すのがどんなに楽しくても、時間を忘れることはないように、また、お酒を飲みすぎることはないように、ということでした。(これを実践できなかったことが、先週メールを送れなかった原因です)

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

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