記述しなかったことを記述すること


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 10:26 am

April, 6, 2025

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

先週は、トランプ大統領による謎の「相互」関税導入によって、市場は大荒れでしたね。私はかねてより積立NISAへの批判をしていたり、現在の株価が実態からかけ離れていると述べていたりしており、あなたも察していたように、私はノーポジションだったので直接的な影響は受けていません。あなたも被害がなければ、もしくは軽傷であればと祈っております。また、日本が報復関税などを導入して、さらに私やあなたの生活を貧しくさせないことを祈っております。

こんな状況になった今もなお、NY市場やS&P500に投資をしようとしている人たちがいます。これまでの株価や投資家、インフルエンサー、また制度の影響を受けてのことでしょう。彼らはこれは一時的なものであると述べ、数字を取り上げ、これからも伸び続けると論証しています(彼らの出す数字が実行為替レートを考慮していない点は注意してください)。しかし、彼らが人であるとするならば(BOTの可能性もありますが)、彼らは嘘をつこうと思っているわけではないでしょう。ただ、彼らは重要なことを忘れているのです。

数字や論証は嘘をつきます。

検出された数値や、使われる論理、これらは嘘をつきません。しかし、人が関わると嘘が生じえます。人にはバイアスがあります確証バイアスによって、自分の信念をサポートするために見た数字に固執し、その数字を見直すことを避けさせたり、自分にとって都合の悪い数字を見落とさせたりします。一貫性バイアスによって、一度出した結論のために、それに行きつくための根拠を見つけて、結論に反する根拠があっても例外として見落とさせたり、あまつは、キレイな論証を作り出します。

今なお積立NISAやインデックス投資を信じている人は、バイアスが自分にかかっていることを思い出せないでいるのか、気づけていないのです。そして、記述されない外部のことに注意を払っていないのです。

何かを記述するということは、別の何かを記述しないということでありますが、その一方で、その別のなにかがあることを認めることでもあります。

人や脳や社会がバイアスにかかっているのは生存に有利に働くからなのかもしれませんが、世界の探求者、知の前進を求める者としては、バイアスにかかっていることと記述しなかった物事に意図的に気付けるようにならなければなりません。

そのためには、まず自分について記述してみること、特に、自分の身体の記述されていないところを記述することが大事です。そして、記述されていなかったところを記述した結果、改めて記述し、また更に記述されなかったものを記述する、というのを繰り返すのです。

そのために私があなたに提示したいのは、ムドラ、手で印を結ぶことです。念の為に言いますが、神秘家たちが言うような、印象・印を結ぶことによる効果など、私は全く信じていません。印の本質は、印を結ぶことによる身体の変化に気づくこと、つまり、意識的な自己の記述です。先にオチを言うことになってしまいますが、今日紹介する6つのムドラも、結局のところは、肩の位置を微細に調整することによって、呼吸の仕方が変わることを、意識的に記述させるものです。

まず紹介するのが小指のムドラ(カニシュタ・ムドラ)です。前提として、ある程度落ち着いた状態になっておき、そして、椅子に座ってください。そして、以下の手順を行ってください。

  1. 手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
  2. ゆっくりと小指の指先を押し合わせ、他の指は力を抜いて、内側に丸める。
  3. 肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

他の、薬指のムドラ、中指のムドラ、人差し指のムドラ、親指のムドラも、手順がほぼ同じで、手順2の押し合わせる指を変えるだけです。

ハーキニー・ムドラは少し手順が異なります。

  1. みぞおちの前で両手の手のひらを向かい合わせる。
  2. ゆっくりと両手の同じ指同士の指先を合わせる。
  3. 球体を持つように、両手で丸い形を作る。
  4. 肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

以上になります。(†1)

それぞれのムドラで呼吸をすると、呼吸をする際の位置が変わります。お腹の底、胸、肩、また全部を使った呼吸と、印ごとに変わります。一度試して確認してみてください。この変化は、各指が担う五大元素の力などではなく、肩の位置が変わることによるものです。肩の位置が変われば肺にかかる力が変わりますし、背中の筋肉の使い方が変わりますし、それによって、背中につながっている各部位にも変化が出ます。なので、呼吸の仕方が変わるのも当然です。

このように、「印を結ぶ」という記述からは除外されていた外部の、肩の位置と呼吸を、今ここで、私は記述しました。

ムドラで分かることは、何かを記述することには記述されていなかったことが多く含まれること、そして、私達人類の身体においては思っているよりも多くの連動があり、それを見落としがちであることです。

私は別に、あなたにムドラを日常的にやることを勧めるつもりはありません。やる必要がない限りやらなくてよいものです。ただ、私には、あなたに伝えなければならないことがあります。

身体がそうであるように、私達の思考は複雑に絡み合っています。そして、そのどこか一つにでもバイアスがあれば、行き詰まってしまいます。バイアスがないかをひとつひとつ解いていき、調査しなければなりません。そのためには、自己を記述することと、記述されない外部が存在することを忘れないでください。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

†1: 手順ならびに画像は、著: Joseph and Lilian Le Page、訳: 小浜 杳(2019)「ムドラ全書」ガイアブックス社のpp.10-21による。

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