人生の意味を問うことの意味と危険性


From:

Stephen S. HANADA

Shinjuku, Tokyo

Sunday, 12:40 a.m.

親愛なる友人へ、

いかがお過ごしですか?

Kiro、Antigravity、GitHub Copilot、Grok、これらを用いて、ボードゲームの戦略を作り、シミュレーションを実行するために、私は個人開発をしていましたが、そんな中にあって、私は自分の行為に疑問を抱き、嘆きました。

こんなことのために、

貴重な資源を使っていいのか?」

Issueを作り、CopilotとAntigravityに実装させ、テストさせ、それぞれで出されたPRをGrokにReviewさせ、良い方を採用し、シミュレーションとその結果をAntigravityに実行させる。KiroにSpecから作らせて、後はポチポチとボタンをクリックするだけで済ませることも、別レポジトリでやっています。

しかし、その裏には何があるのでしょうか? LLMを実現するためには、冷却のための水資源、動かすための電気と燃料としての石油資源や原子力、このように多くの天然資源が使われています。さらに、LLMを開発する企業、LLMを実行できるようにするためのデータセンター、GPUやメモリを開発・生産する企業、これらの間にあるお金の流れは実に奇妙で、どこかで何かがおかしくなって、それが関係ない他の多くのところに影響を及ぼすことになっても不思議ではありません。

時代の流れに乗った手法で、趣味のための開発をしている自分を、その行為の裏にある資源や企業といった経済の文脈に置いて考えると、私は自分の行為に対して意味を問いかけたくなります

私がそのような軽めの疑問を持つのに対して、もっと深刻な嘆きをする人たちもいます。世界トップの囲碁棋士、イ・セドル氏は、AlphaGoに負け、絶対に超えられない壁の前に感じた虚無と挫折を理由に引退をしました。大学講師の中には、明らかにLLMによって作られているレポートを見て、自分の教育に対しての意味のなさを覚えてしまうこともあるそうです。このように、自分の人生や仕事に対して意味を問うてしまうことがあります。

私の経済とエンジニアリングに対する疑問よりも、物事を自分のものとしてより深刻に捉えている人たちがいることを、私は日本科学哲学大会のワークショップで知り、それに驚きつつも、理解する一方で、疑問が湧き、質問しました。

AIに仕事をやってもらうのって、奴隷や業務委託やコンサルや部下に仕事をやってもらうのと、何が違うのでしょうか?

AGIやLLMが出てなくても、羽生さんに対して素人は圧倒的な壁を感じていましたし、レポートの代筆がなされていました。何も変わっていないのでは?

意味を問うこと自体が、意味を失わせているのではないですか?

今考えれば、かなり共感性のなさを感じさせる質問ですね。人が痛みを感じているのに、それが語られているのに、痛みと思うから痛みなんだ、意味を問うこと自体に意味をなくす可能性があるんだ、と言っているのですから。学術領域の場で、そして、お作法を理解している人たちの集まりだから出来た質問でしょう。

私の質問に対する反応や回答はさておいて、私の質問は、古来からの哲学や倫理学で扱われてきた手法と、私がNewsletterで度々取り上げてきた手法を組み合わせたものです。

古来からの手法というのは、なにかの意味を問うこと自体が、その意味を喪失させる可能性があることの指摘です。「挨拶って意味があるんですか?」と問うこと自体が、コミュニケーションの意味を喪失させるというネガティブなものもあれば、「この作業って意味があるんですか?」と問うことによって、その作業の意味を喪失させて、無駄な作業を減らすというポジティブなものもあります。特に倫理学においては、「私の人生の意味とはなんだろうか?」という問いは、自分の人生の意味の感覚を失わせます。つまり、私の質問は、「「LLMやAGIが登場している状況下で、私の仕事に意味はあるか」という問いに意味はあるか」というメタなものです。意味はあるかという問いによって意味が喪失しそうなところに、その意味はあるかという問いそれ自体に対して意味はあるかというメタな問いです。

そして、もう一つの手法が、構造が類似したものを取り出し、差を見出し、当該の問いに対して本質的なものを炙り出そうとすることです。AIが何かをするのと、人が何かをするのと何が違うのか、部下や友人に何かを依頼するのと何が違うのか、と問うことによって、本当に問いたいものを炙り出すのです。今回の場合は、以前から語られてきた、ロボット倫理学における「偽りの関係」の問題や、ノージックの「経験機械」にあるような主観性や主体性、当事者性の問題が、より明確になり、そして、かつて問題として議論されてきたものとの違いが浮き彫りになります。

意味があるか、意味が変わるか、という問い自体の有害性に意識を向け、構造が類似したものを取り出して、本当に探求したい問いを炙り出すこと、それが私が知的探求、知の発展においてやっていることの一つです。

とは言っても、意味を問いかけ続けたくなることもあるかもしれません。その場合、どうするのが良いのでしょうか?

いや、人様から見れば、私は意味を問い続けているように見えるのかもしれません。しかし、私は何かの意味を問うているような自覚はありません。あくまでも探求しているのです。これが、意味を問いかけたくなった時の一つの解法かもしれません。つまりは、知的探求という文脈においては、意味や世界を探求するという実践者・当事者であり続ける限り、その行為によって意味を毀損することはない、つまりは意味を有し続けるはずだ、ということです。

ただ、その問いへの関わり方、探求の仕方というのは、メタなものを利用したり、他の文脈への跳躍と往復とを必要とするでしょう。

もしあながた何かの意味を問いたくなったら、今回の手法も参考にしてみてください。

それでは、

青を心に。

Stephen S. Hanada

"Gentleman Philosopher"

P.S. phono2氏の「AI自体の倫理」を読み、また、日本科学哲学大会のワークショップ「AI時代のテクノロジーと人生の意味」に参加して、今回のNewsletterを書きたくなりました。phono2氏の書籍はKindle Unlimitedでも読めますので、気になられた方は是非。

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